FDS検証(NUREG 1934 付録B)
FDS検証(NUREG 1934 付録B / Appendix B)
本ケースでは、米国NRC NUREG-1934(EPRI 1023259)付録B(Appendix B)— スイッチギア室の キャビネット火災 を、FRI3Dの FDS パイプラインで実行し、本ケースに対する NRC自身のFDS入力ファイル と比較します。 両者ともFDS 6.7.9で実行しています。 CFAST付録B検証 のFDS版であり、 FDS付録A検証 を 火災の成長と延焼 を伴うシナリオに拡張するものです。
FRI3Dはプラントモデルのみから FDS 入力を生成します。キャビネット上方のケーブルトレイがいつ着火し、 ケーブルがいつ損傷するかは、実行中にFDSが判定します。
- 最下段トレイ は、キャビネット火災の火炎が到達した時点で着火します。FRI3Dがこの時刻を 火災の熱放出速度曲線から算定します。トレイ内のFDS自身のTHIEFケーブルが先に損傷した場合は、 その時点で着火します。
- 上段のトレイ は、FLASH-CATのスタックスケジュール(NUREG/CR-7010)に従います。
- 各 ケーブル は、FDSのTHIEFケーブルモデル(被覆の2 mm内側の温度)が損傷温度 (NUREG/CR-6931 Vol. 3)に達した時点で損傷します。
概要
| 事象 | FRI3D FDS | NRC FDS | 差 |
|---|---|---|---|
| 最下段トレイ(3.9 m)着火 | 472 s | 553 s | −81 s |
| 中段トレイ(4.4 m)着火 | 712 s | 793 s | −81 s |
| 最上段トレイ(4.9 m)着火 | 892 s | 973 s | −81 s |
| 最下段トレイのケーブルが205 °Cに到達 | 560 s | 553 s | +7 s |
| 中段トレイのケーブルが205 °Cに到達 | 749 s | 711 s | +38 s |
| 最上段トレイのケーブルが205 °Cに到達 | 834 s | 883 s | −49 s |
| 1200 sの熱放出速度 | 1476 kW | 1493 kW | −1 % |
| 隣接キャビネット | 損傷なし | 損傷なし | — |
- 着火。 両入力ファイルは同じFLASH-CATスケジュールを使用し、最下段トレイを何が着火させるかのみが 異なります。FRI3Dは火炎が到達した472 sで着火させ、これはNUREG-1934が同じ事象に示す480 sに近い値です。 NRCのFDS入力ファイルはトレイ下のケーブルが損傷する553 sまで待ちます。そのため、FRI3Dの着火順序全体は 81秒早く進みます。
- ケーブル。 最下段トレイのケーブルはNRCとの差7秒以内で損傷します。中段・最上段トレイのケーブルは それぞれ38秒遅く、49秒早く損傷します。格子感度解析がその理由を示しています。これらのケーブルは 別のトレイの火炎で加熱され、FRI3Dの0.2 m格子は、トレイ周辺が0.1 m格子のNRCほど鋭くその火炎を解像しません。 トレイ周辺を0.1 mメッシュとすると、最下段トレイの着火から数えて、最上段トレイのケーブル損傷はNRCとの差5秒以内、 中段トレイは47秒以内となります。
- 熱放出速度とガス温度 はよく一致し、差は着火が早いことに起因します。
リファレン スケース
CFAST付録Bケース と同じ室・火災です。
- 厚さ0.5 mのコンクリートの壁・床・天井を持つ26.5 × 18.5 × 6.1 m のスイッチギア室での464 kWの電気キャビネット火災
- キャビネット上方に0.5 m間隔で積み重ねた3段の水平ケーブルトレイ
- 給気ファン3基・排気ファン3基。それ以外は密閉
2つのFDS入力ファイル:
| 項目 | NRC FDS入力ファイル | FRI3D FDS入力ファイル |
|---|---|---|
| 出典 | NUREG-1934 CD、Switchgear_Room_Cabinet.fds(FDS 5)をFDS 6へ変換 | FRI3DのNUREG-1934 付録B検証モデルから生成 |
| キャビネット火災 | 464 kW、720 sまでt²成長、1200 sまで定常 | 同じ |
| 格子 | 752,040セル: 火源とトレイ周辺は0.1 m、それ以外は0.2 × 0.2 × 0.1 m | 576,000セル、0.2 m |
| 計算時間 | 1200 s | 1200 s |
| ソルバー | FDS 6.7.9、MPIプロセス3 | FDS 6.7.9、OpenMPスレッド8 |
NRCの入力ファイルはFDS 5用に書かれています。FDS 6で実行するため、NRCの値を保ったまま ケーブルモデルと燃焼の入力を変換しました。NUREG-1934はFDS 5で最下段トレイのケーブルが約495 sで 損傷したと報告していますが、FDS 6では553 sで損傷します。FRI3DはFDS 6の実行結果と比較しており、 両入力ファイルは同じソルバーで実行されています。
二次着火(FLASH-CAT)
両入力ファイルとも燃焼トレイを同じ方法でモデル化します。各トレイの帯状の領域が一定の単位面積あたり 熱放出速度で燃焼し、燃焼領域はトレイに沿って両方向に延焼し ます。
| 項目 | NRC FDS入力ファイル | FRI3D FDS入力ファイル |
|---|---|---|
| 最下段トレイの着火 | その下のTHIEFケーブルが205 °Cに達した時 | 火炎が到達した時(算定値: 472 s)、またはその下のTHIEFケーブルが200 °Cに達した時のいずれか早い方 |
| 中段トレイの着火 | 最下段の240 s後 | 最下段の240 s後(FLASH-CAT: +4分) |
| 最上段トレイの着火 | 最下段の420 s後 | 最下段の420 s後(FLASH-CAT: さらに+3分) |
| 初期燃焼長さ(下段 / 中段 / 上段) | 0.6 / 1.4 / 2.0 m | 0.42 / 1.12 / 1.82 m |
| トレイに沿った延焼速度 | 0.89 mm/s | 0.89 mm/s |
| ケーブルの単位面積あたり熱放出速度 | 250 kW/m² | 250 kW/m² |
| 各トレイ区画の燃焼 | 127 sで最大、762 sで消炎 | 134 sで最大、805 sで消炎 |
- 初期燃焼長さは両入力ファイルともスタックを上るにつれて広がります(FLASH-CATの35°拡がり)。 FRI3Dはモデル化した火災の幅から始め、トレイごとに0.7 m(両側に0.5 m × tan 35°)広げます。 NRCは0.6 mの帯から始め、0.8 m、次いで0.6 m広げます。
- FRI3Dは各トレイの燃焼時間を、ケーブルライブラリのケーブル質量と燃焼熱から算定します。 その値はNRCの入力ファイルが示す時間より6 %長くなります。
着火時刻:
| トレイ | FRI3D FDS | NRC FDS | NRC CFAST入力ファイル(規定値) | FRI3D CFAST |
|---|---|---|---|---|
| 3.9 m | 472 s | 553 s | 480 s | 482 s |
| 4.4 m | 712 s | 793 s | 720 s | 722 s |
| 4.9 m | 892 s | 973 s | 900 s | 902 s |
FRI3Dの最下段トレイを着火させた条件:
| 条件 | 最初に満たした時刻 |
|---|---|
| 火炎先端が最下段トレイに到達 | 472 s |
| 最下段トレイ下のTHIEFケーブルが200 °Cに到達 | 550 s |
FRI3Dの火炎到達時刻は、NUREG-1934とNRCのCFAST入力ファイルが用いる480 sと一致します。 NRCのFDS入力ファイルはケーブルの損傷でトレイを着火させるため、81秒長くかかります。
結果
熱放出速度

| 時刻 | FRI3D FDS | NRC FDS | 差 |
|---|---|---|---|
| 300 s | 81 kW | 81 kW | 0 % |
| 480 s | 212 kW | 207 kW | +2 % |
| 600 s | 398 kW | 363 kW | +10 % |
| 720 s | 571 kW | 597 kW | −4 % |
| 900 s | 869 kW | 877 kW | −1 % |
| 1000 s | 1229 kW | 1036 kW | +19 % |
| 1100 s | 1390 kW | 1437 kW | −3 % |
| 1200 s | 1476 kW | 1493 kW | −1 % |
- 最初のトレイ着火までは、両入力ファイルは同じキャビネット火災を燃焼させます。
- FRI3Dは各トレイを81秒早く着火させるため、トレイの火災が成長する間はFRI3Dが先行します(600 s、1000 s)。 両方で同じトレイが燃焼するとNRCが追いつき(720 s、900 s、1100 s)、NRCの入力ファイルは各トレイを より長い燃焼帯から始めるため、その後はわずかに上回ります。
THIEFケーブル温度

| トレイ | FRI3D THIEFケーブル高さ | FRI3D 205 °C到達 | NRC THIEFケーブル高さ | NRC 205 °C到達 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3.9 m | 3.7 m | 560 s | 3.8 m | 553 s | +7 s |
| 4.4 m | 4.3 m | 749 s | 4.3 m | 711 s | +38 s |
| 4.9 m | 4.7 m | 834 s | 4.8 m | 883 s | −49 s |
- 両入力ファイルとも、各THIEFケーブルをトレイの直下、キャビネット火災の上方に配置し、 被覆の2 mm内側の温度を読み取ります。
- 最下段トレイ。 着火前はキャビネット火災のプルームのみがケーブルを加熱し、両入力ファイルは 1 °C以内で一致します。ケーブルはNRCとの差7秒以内で損傷します。
- 中段トレイ。 ケーブルは自身のトレイが燃焼する前に、0.3 m下の最下段トレイの火炎で加熱されて損傷します。 FRI3Dの火炎は81秒早く始まりますが、ケーブルの昇温速度はNRCの約3分の1のため、38秒遅く損傷します。
- 最上段トレイ。 昇温は同様に遅いものの、FRI3Dの中段トレイの火災が早く始まる効果が上回り、 ケーブルは49秒早く損傷します。
- トレイが燃焼し始めると、FRI3Dのケーブル温度はNRCより100〜160 °C低くなります。
格子感度解析
FRI3Dの入力ファイルを、NRCの入力ファイルと同様に火源とトレイスタック周辺を0.1 mメッシュとする 一点のみ変更して再実行しました。最下段トレイはNRCの入力ファイルと同じくケーブルで着火させ、 両者が同じ順序をたどるようにしています。他の2つの計算と同じく、1200 sまで計算しています。
| FRI3D、0.2 m格子 | FRI3D、火源周辺0.1 m | NRC | |
|---|---|---|---|
| 最下段トレイ着火の91 s後の、そのケーブル温度 | 206 °C | 319 °C | 304 °C |
| 最下段トレイ着火から中段トレイのケーブル損傷まで | 278 s | 205 s | 158 s |
| 最下段トレイ着火から最上段トレイのケーブル損傷まで | 362 s | 334 s | 329 s |
| 1200 sの熱放出速度 | 1476 kW | 1431 kW | 1493 kW |
- 細かいメッシュでは、FRI3Dの入力ファイルは自身のトレイの火炎中のケーブルを、NRCの入力ファイルと 同じ速さで加熱します。
- 中段トレイのケーブルは最下段トレイ着火の205 s後に損傷し(NRCは158 s)、差の61 %が解消します。 残る47 sは、その時点でNRCの室内火災が大きいこと(578 kW 対 506 kW)と整合します。 NRCの入力ファイルは最下段トレイを遅く、より大きなキャビネット火災の中で着火させるためです。
- 最上段トレイのケーブルは最下段トレイ着火の334 s後に損傷し(NRCは329 s)、細かいメッシュにより差の85 %が解消します。
- 熱放出速度は900 sまで平均でNRCとの差1 %以内で、最後は4 %低くなります(1431 kW 対 1493 kW)。 NRCの入力ファイルが各トレイをより長い燃焼帯から始めるためです。0.2 mの計算がNRCに近い値で終わるのは、 トレイを81秒早く着火させたためにすぎません。
- トレイが燃焼し始めると、ケーブルはトレイの火炎の中にあり、その温度は各ケーブルが火炎のどこにあるかに 左右されます。細かいメッシュでは、FRI3Dのケーブル最高温度はNRCとの差約100 °C以内で、2本は高く、1本は低くなります。 これはケーブルが損傷した後のことであり、損傷時刻には影響しません。
したがって、ケーブル温度の差はFRI3Dの入力ファイルの作り方ではなく、トレイ周辺の格子に起因します。 ケーブルトレイスタック周辺を0.1 mメッシュとすると、NRCのケーブル加熱を再現します。
高温ガス層

NRCの入力ファイルには層のデバイスがないため、両入力ファイルの層を同じ方法で算定しています。 火源を通る同一の鉛直断面上で、火源の両側約6 mの位置です。
| 時刻 | 層の高さ FRI3D / NRC | 上部層温度 FRI3D / NRC |
|---|---|---|
| 300 s | 4.3 / 5.0 m | 23 / 23 °C |
| 472 s | 3.3 / 4.0 m | 28 / 27 °C |
| 720 s | 2.4 / 3.2 m | 41 / 38 °C |
| 900 s | 2.2 / 2.6 m | 53 / 45 °C |
| 1200 s | 1.9 / 2.2 m | 74 / 66 °C |
- 温度 はトレイが燃焼するまで1〜3 °C以内で一致します。その後FRI3Dは最大9 °C高くなります。 トレイの着火が早く、最終的に5 %多くの熱を放出しているためです。
- 高さ。 FRI3Dの層は、トレイが燃焼する前から0.3〜0.8 m低くなります。NRCの入力ファイルは室全体で 高さ0.1 mのセルを、FRI3Dは0.2 mのセルを使用します。セルが高いほど高温層と下の冷たい空気の境界が 厚く広がり、層が低く読み取られます。壁、換気、火災は両者で同じであり、火源周辺のみを細かくしても 層は変わりません。
- ケーブルとキャビネットは火災のプルームと火炎の中にあるため、層の高さはそれらの結果に影響しません。
損傷の検証
NRCの付録Bケースでは、2種類の対象について損傷を定義しています。3段のトレイ内のケーブル (205 °Cで損傷するTHIEFターゲット)と、燃焼キャビネットに隣接するキャビネット (NUREG-1934は損傷しないと結論)です。FRI3Dの損傷結果をこの両方と比較します。 トレイ(レースウェイ)と燃焼キャビネットの損傷にはNRCの対応値がないため、FRI3DのCFAST結果を 参考として示します。
ケーブル
| トレイ | FRI3D FDS | NRC FDS | NRC CFAST入力ファイル(THIEFターゲット) | FRI3D CFAST |
|---|---|---|---|---|
| 3.9 m | 552 s | 553 s | 630 s | 537 s |
| 4.4 m | 742 s | 711 s | 700 s | 640 s |
| 4.9 m | 832 s | 883 s | 840 s | 835 s |
- ケーブルはスタックの順に損傷し、NRCのFDS入力ファイルとの差はそれぞれ1、31、51秒です。
- FRI3Dは、本モデルのケーブル種別が不明なため、NUREG/CR-6931 Vol. 3の熱可塑性ケーブルの閾値200 °Cを 使用します。NRCの入力ファイルは205 °Cを使用します。
ケーブルトレイ
| トレイ | FRI3D FDS | FRI3D CFAST | NRC |
|---|---|---|---|
| 3.9 m | 677 s | 506 s | 評価なし |
| 4.4 m | 815 s | 624 s | 評価なし |
| 4.9 m | 816 s | 818 s | 評価なし |
- トレイの損傷はヒートソーク法で判定します。トレイが受ける熱の時間積算に基づく方法です。
- NRCはトレイ内のケーブルを評価しており、トレイそのものは評価していません。
- 2つのソルバーはその受熱を異なる方法で算定します。FDSはトレイ上で解像する温度と熱流束から、 CFASTは火災プルームと煙層の式から算定します。FDSは下の2段のトレイをCFASTより遅く損傷させます。 下の2段が燃焼して加熱される最上段トレイは、両者で同時に損傷します。
キャビネット
| キャビネット | FRI3D FDS | NRC FDS | FRI3D CFAST | NRC CFAST入力ファイル |
|---|---|---|---|---|
| 燃焼キャビネット | 232 sで損傷 | 評価なし(火源そのもの) | 48 sで損傷 | 評価なし |
| 隣接キャビネット | 損傷なし(表面ピーク95 / 85 °C) | 損傷なし(表面ピーク135 / 129 °C) | 損傷なし(ピーク143 / 139 °C) | 損傷なし(ピーク137 °C) |
- 隣接キャビネットは両FDS入力ファイルとも205 °Cの損傷しきい値を大きく下回り、NUREG-1934の結論と一致します。
- NRCのFDS入力ファイルは隣接キャビネット列の上面を含むあらゆる箇所の最高温度を読み取ります。 上面は高温層と燃焼トレイに面しています。FRI3Dは各キャビネットの火源側の側面の0.4 m範囲を読み取るため、 低い値になります。
- 燃焼キャビネットのターゲットは火源の直上にあります。CFASTのプルーム式は、火災がごく小さい間 (48 sで2 kW)で もそこで火炎温度を与えます。FDSは小さな火炎を0.2 mのセルに分散させるため、 火災が約50 kWに成長した232 sでターゲットが205 °Cを超えます。
結論
FRI3DのFDSパイプラインは、プラントモデルとケーブルライブラリのみから、NRCのFDS入力ファイルと同じ 二次着火ロジック(同じスタック遅延、延焼速度、ケーブルの熱放出速度)を記述します。最下段トレイは 火炎到達により着火し、NUREG-1934の480 sと一致します。NRCのFDS入力ファイルはケーブルの損傷を待って着火させます。 同じFDSバージョンで実行すると、両入力ファイルは熱放出速度と、最下段トレイのケーブル損傷について7秒以内で一致します。 中段・最上段トレイのケーブルはNRCとの差50秒以内で損傷し、格子感度解析により、残る差がトレイ周辺の メッシュ解像度に起因することが示されています。隣接キャビネットはNUREG-1934と同様に損傷しません。
参考文献
- NUREG-1934 / EPRI 1023259, Nuclear Power Plant Fire Modeling Analysis Guidelines, Appendix B: Cabinet Fire in a Switchgear Room.
- NUREG/CR-7010 Vol. 1, Cable Heat Release, Ignition, and Spread in Tray Installations During Fire (CHRISTIFIRE), Phase 1: Horizontal Trays, §9.2: FLASH-CATモデル。
- NUREG/CR-6931 Vol. 3, Cable Response to Live Fire (CAROLFIRE), Volume 3: Thermally-Induced Electrical Failure (THIEF) Model.